「自宅の家賃を会社の経費にできないだろうか」「役員社宅なら家賃の8割を会社負担にできると聞いたけれど、本当なのか」と気になっている経営者の方もいるでしょう。
役員社宅は、ルールどおりに設計すれば有効な節税方法の一つです。ただし、税法上「家賃の80%まで経費にできる」という決まりがあるわけではありません。
ポイントは、役員が会社へ支払うべき賃貸料相当額です。
住宅が小規模住宅に該当し、賃貸料相当額が実際の家賃の20%程度以下になれば、結果として家賃の80%以上を会社側で負担できるケースがあります。一方、小規模住宅に該当しない借上社宅では家賃の50%が基準になる場合があり、豪華社宅では通常の家賃相当額を役員が負担しなければならない可能性があります。
この記事では、役員社宅による節税の仕組みから賃貸料相当額の計算方法、家賃の8割を会社負担にできる条件、豪華社宅の判定まで順番に解説します。
目次
役員社宅による節税とは?家賃を会社負担にできる仕組み
役員社宅とは、会社が住宅を用意して役員へ貸与する仕組みです。
典型的なのは、賃貸マンションを法人名義で契約し、その部屋に社長や役員が住む借上社宅です。
会社が月20万円のマンションを契約し、役員から月3万円を社宅家賃として受け取るなら、会社が実質的に負担するのは17万円です。
このとき重要なのが、役員負担の3万円が税法上必要とされる賃貸料相当額以上になっているかどうかです。
国税庁は、役員から1か月当たり一定額の賃貸料相当額を受け取っていれば、社宅の貸与による経済的利益を給与として課税しない取扱いを示しています。反対に、無償で貸した場合は賃貸料相当額が給与課税の対象となり、賃貸料相当額より低い家賃しか徴収していない場合は、その差額が給与課税の対象になります。
個人契約の家賃を会社が払うだけでは役員社宅にならない
ここは間違いやすいところです。
現在住んでいるマンションを役員個人の名義のままにして、会社が家賃を負担すればよいわけではありません。
国税庁は、入居者が直接契約している住宅の家賃を会社が負担した場合や、現金で住宅手当を支給した場合は社宅の貸与とは認めず、給与として課税する取扱いを示しています。
借上社宅として運用するのであれば、法人が物件を借り、それを役員へ貸すという契約関係を整えることが基本です。
役員社宅なら家賃の8割を経費にできる?
結論からいうと、条件次第では可能です。ただし80%という税法上の固定ルールはありません。
実際に会社がどの程度を負担できるかは、役員から徴収しなければならない賃貸料相当額によって決まります。
たとえば会社が月20万円の家賃を支払い、適正な賃貸料相当額が月4万円なら、役員負担は4万円、会社の実質負担は16万円です。
結果として家賃の80%を会社側で負担することになります。
しかし同じ月20万円の住宅でも、賃貸料相当額が10万円なら会社負担は10万円です。
役員社宅=80%経費ではなく、実際の家賃 − 適正な役員負担額=会社の実質負担額と理解する方が正確です。
家賃の8〜9割を会社負担にしやすいのは小規模住宅
役員社宅の節税効果が大きくなりやすいのが、国税庁の定める「小規模な住宅」に該当するケースです。
2026年8月時点で確認できる国税庁の基準では、次の住宅が小規模住宅に該当します。
| 建物 | 床面積 |
|---|---|
| 法定耐用年数30年以下 | 132㎡以下 |
| 法定耐用年数30年超 | 99㎡以下 |
マンションなどの区分所有建物では、専有部分だけではなく、共用部分をあん分して加えた床面積で判定します。国税庁の質疑応答でも、マンションの共用部分を含める取扱いが示されています。
都内の一般的なマンションを役員社宅にする場合、この小規模住宅に該当する可能性があります。ただし、物件ごとの構造と床面積を確認して判定する必要があります。
小規模な役員社宅の賃貸料相当額を計算する方法
小規模住宅の場合、役員が負担すべき1か月の賃貸料相当額は次の3つを合計して計算します。
- その年度の建物の固定資産税課税標準額 × 0.2%
- 12円 × 建物の総床面積㎡ ÷ 3.3㎡
- その年度の敷地の固定資産税課税標準額 × 0.22%
ここで注意したいのが、家賃20万円ならその20%、という計算ではないことです。
基準となるのは固定資産税の課税標準額です。
国税庁は、この課税標準額について、原則として固定資産課税台帳に登録された価格を使用すると説明しています。
計算例|家賃20万円の小規模住宅
仕組みを理解するため、実際の事例ではなく説明用の仮定で計算してみます。
- 家賃:月20万円
- 建物の固定資産税課税標準額:300万円
- 敷地の固定資産税課税標準額:500万円
- 床面積:70㎡
建物
300万円 × 0.2% = 6,000円
床面積
12円 × 70㎡ ÷ 3.3㎡ = 約255円
土地
500万円 × 0.22% = 11,000円
合計すると、賃貸料相当額は月約17,255円です。
この条件だけを前提にすれば、会社が家主へ支払う20万円と役員負担約1.7万円との差額である約18.3万円を会社が実質的に負担する形になります。
このように、小規模住宅では結果として家賃の8割を超える部分を会社負担にできるケースも考えられます。
ただし、これはあくまで計算方法を理解するための仮定です。実際には対象物件の固定資産税課税標準額を確認して計算してください。
小規模住宅でなければ「家賃50%」が重要になる
役員社宅について調べると、「会社が家賃の50%まで負担できる」「役員が家賃の50%を払えばよい」という説明を見ることがあります。
しかし、すべての役員社宅に一律50%ルールがあるわけではありません。
小規模住宅に該当しない借上社宅では、次の2つを比較します。
- 会社が家主へ支払う家賃の50%
- 固定資産税課税標準額を基に所定の算式で計算した金額
このうち金額が大きい方が賃貸料相当額です。
たとえば会社が家主へ月30万円を支払っているなら、50%は15万円です。
もう一方の計算額が12万円なら、役員負担額は15万円以上にする必要があります。反対に計算額が17万円なら、15万円では不足し、17万円以上の徴収が必要になります。
従業員の「50%ルール」と混同しない
さらに注意したいのが従業員社宅です。
使用人の場合、国税庁は賃貸料相当額の50%以上を本人から受け取っていれば、差額を給与課税しない取扱いを設けています。
参考:国税庁「No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき」
一方、役員では基本的に役員用の賃貸料相当額そのものを基準に判断します。
つまり、役員社宅の50%と、従業員社宅の50%は別の話です。
この違いを理解せずに「とりあえず家賃の半分を役員から徴収しておけばよい」と処理するのは避けた方がよいでしょう。
豪華社宅では役員社宅の節税メリットが小さくなる
自由が丘をはじめ、目黒区や東京都23区内では賃料の高い住宅も珍しくありません。
そのため、役員社宅を検討するときは「豪華社宅」に該当しないかも確認しておく必要があります。
豪華社宅の場合、小規模住宅などで使用する通常の算式ではなく、通常支払うべき使用料に相当する額が賃貸料相当額になります。
結果として役員本人の負担が大きくなり、通常の役員社宅ほどの節税効果を期待できなくなる可能性があります。
240㎡を超えたら自動的に豪華社宅になるわけではない
ここも誤解されやすいポイントです。
国税庁は、床面積240㎡を超える住宅のうち、取得価額、支払賃貸料、内外装の状況、その他の要素を総合的に考慮して豪華社宅かどうかを判定するとしています。
したがって、240㎡超=必ず豪華社宅という単純な判定ではありません。
反対に240㎡以下でも、一般的な住宅にはないプールなどの設備や、役員個人の嗜好を著しく反映した設備がある住宅は豪華社宅になる可能性があります。
高額賃貸住宅や特殊な設備のある住宅を役員社宅にする場合は、契約する前に税務上の取扱いを確認しておくことをおすすめします。
役員社宅を導入するときの5つの注意点
役員社宅は契約だけ法人名義に変えれば終わりではありません。
少なくとも次の5点を確認しておきましょう。
1. 法人が住宅を借りて役員へ貸す形にする
個人契約の家賃を会社が負担するだけでは、国税庁上は社宅貸与として扱われず、給与課税される可能性があります。
現在の契約を法人契約へ変更できるか、貸主や管理会社への確認も必要です。
2. 賃貸料相当額を正しく計算する
「家賃の20%くらい」「とりあえず50%」ではなく、対象物件がどの区分なのか判定してから賃貸料相当額を計算します。
特に借上社宅では固定資産税課税標準額の確認が実務上のハードルになりやすいポイントです。
3. 毎月きちんと役員から家賃を徴収する
計算だけしていても、実際に徴収していなければ意味がありません。
役員から会社へ振り込む、役員報酬から控除するなど、毎月の徴収記録を残せる形で運用すると管理しやすくなります。
4. 社宅規程を整備する
国税庁の賃貸料相当額の算式に「社宅規程を作ること」が直接の計算要件として記載されているわけではありません。
ただし、次のような内容を社宅規程として整理しておけば、会社としてどのようなルールで社宅制度を運用しているのか説明しやすくなります。
- 誰を対象とするか
- 会社負担範囲
- 役員負担額
- 家賃徴収方法
- 入退去時のルール
浅野税務会計事務所の既存コラムでも、社宅制度について規程と実態を整えて運用する必要性を説明しています。
5. 税務と社会保険を同じルールだと考えない
役員社宅によって役員報酬の設計を見直すと、社会保険料に影響する場合があります。
ただし、社会保険では住宅の提供も現物給与として扱われることがあり、税務上の賃貸料相当額とは別に、厚生労働大臣が定める現物給与価額に基づいて評価します。
そのため、「役員社宅にすれば必ず社会保険料も同じ金額だけ下がる」と考えるのは適切ではありません。
特に日本年金機構は2026年10月から住宅の現物給与価額・算出方法の改正を予定しています。社会保険まで含めて役員報酬を設計する場合は、その時点の最新情報を確認してください。
役員社宅の節税が向いている会社・向いていない会社
役員社宅はすべての法人に適した節税方法ではありません。
検討しやすいケース
- オーナー経営者が賃貸住宅に住んでいる
- 法人として安定した家賃負担が可能
- 小規模住宅に該当する
- 固定資産税課税標準額を確認できる
- 長期間同じ住宅に住む予定
- 給与・社宅を含めた役員報酬設計を見直したい
このような場合は、役員社宅を検討する価値があります。
慎重に判断したいケース
- 豪華社宅に該当する可能性がある
- 近いうちに退去予定
- 法人契約を認めてもらえない
- 会社の資金繰りに余裕がない
- 役員負担額の根拠資料を用意できない
- 税務と社会保険を含めた運用体制を整えられない
役員社宅は「経費を増やせば得」という施策ではありません。
会社と個人を合わせた税負担・キャッシュフローを確認したうえで導入することが大切です。
よくある質問
Q. 役員社宅なら家賃の80%を会社の経費にできますか?
A. 可能なケースはありますが、80%という税法上の固定基準はありません。小規模住宅について計算した賃貸料相当額が家賃の20%以下になれば、結果として80%以上を会社が実質負担できることがあります。
Q. 役員が家賃の50%を払えば問題ありませんか?
A. 一律ではありません。小規模住宅では固定資産税課税標準額等を使った算式で計算します。小規模でない借上住宅では、会社家賃の50%と所定の算式による金額のうち高い方が賃貸料相当額になります。
Q. 社長一人だけの会社でも役員社宅を利用できますか?
A. 役員社宅の税務ルール自体は、従業員が複数いることを要件としていません。ただし、法人が住宅を貸与する形を整え、適正な賃貸料相当額を徴収する必要があります。
Q. 240㎡以上なら必ず豪華社宅ですか?
A. 必ずではありません。240㎡超の住宅については、取得価額、実際の賃料、内外装などを総合的に判断します。一方で240㎡以下でも、プールなど特殊な設備があれば豪華社宅に該当することがあります。
Q. 個人名義の賃貸住宅の家賃を会社が払うだけでも節税できますか?
A. 役員社宅としての取扱いにはなりません。国税庁は、入居者が直接契約している住宅の家賃を会社が負担する場合について給与として課税する取扱いを示しています。
まとめ|役員社宅の節税は「何割」ではなく賃貸料相当額で判断する
役員社宅は、正しく設計すれば法人・役員双方のキャッシュフロー改善につながる可能性がある制度です。
特に押さえておきたいポイントは次のとおりです。
- 家賃の80%という税法上のルールはない:賃貸料相当額によって会社負担額が決まる
- 小規模住宅は節税効果が大きくなりやすい:固定資産税課税標準額等から役員負担額を計算する
- 50%ルールを混同しない:小規模でない役員社宅と従業員社宅では意味が異なる
- 豪華社宅に注意する:240㎡だけでなく賃料、取得価額、設備等から総合的に判断される
- 契約と運用まで整える:法人契約、家賃徴収、計算資料、社宅規程などを整備する
役員社宅は、物件の種類や固定資産税課税標準額によって適切な役員負担額が変わります。
目黒区・自由が丘をはじめ東京都23区で役員社宅の導入を検討している場合、「自宅を法人契約に変更すればよい」と判断する前に、対象物件の区分と賃貸料相当額を確認することが大切です。
浅野税務会計事務所は1970年に開設され、現在は法人向け税務顧問をはじめ、融資支援、M&A、相続、医療法人・開業支援など幅広い相談に対応しています。役員社宅単体の節税額だけでなく、役員報酬や法人全体の利益を含めて税負担を考えたい場合は、浅野税務会計事務所へご相談ください。